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【ブックレビュー】「LGBTをめぐる出版状況」(『ジェンダー研究21』第7号) [論文・講演アーカイブ]

2018年3月13日(火)

早稲田大学ジェンダー研究所の紀要『ジェンダー研究21』第7号(2018年1月)に寄稿したLGBTについての定期刊行物と学術書のレビューです。
ジェンダー研究21 7.jpg
日本でLGBTムーブメントが起こった2012年以降、2017年秋までを範囲として、できるだけ網羅的に記述したつもりです。
LGBTについて学ぼうとする方のご参考になれば幸いです。

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LGBTをめぐる出版状況
                    三橋 順子

はじめにーLGBTとはー
 LGBTとは性的に非典型な主な4つのカテゴリーの英語の頭文字を合成したものである。Lはレズビアン(Lesbian:女性同性愛者)、Gはゲイ(Gay:男性同性愛者)、Bはバイセクシュアル(Bisexual:両性愛者)、Tはトランスジェンダー(Transgender:性別越境者)を表す。
 本来、性的に非典型な人々が共通の政治・社会的課題に立ち向かう際の連帯を示す概念で、最初からLGBTというカテゴリーやコミュニティがあるわけではない。ところが、この言葉が日本に輸入されたときに、意味が微妙にずれてしまい、LGBTという人がいるかのような使い方がされるようになってしまった。たとえば、マスメディアに見られる「LGBT男性」「LGBT女性」という用法はあきらかに誤りだ。また「LGBT活動家」というのも首を傾げる。なぜなら1人の人間がL・G・Bを兼ねることは不可能だからだ(L・G・BとTは兼ねられる)。
 それはともかく、近年、日本社会でLGBTへの注目が急速に高まっていることは間違いない。それにともなってLGBTに関連する出版が急増している。本稿は、そうした状況を概観することで、LGBTをめぐる諸問題に関心をもつ人たちへのささやかな案内になればと思う。 
 最初に定期刊行物の「LGBT特集」の状況について分析し、次にLGBT関連の学術系書籍を紹介する。

1 定期刊行物の「LGBT特集」
 近年の定期刊行物の「LGBT特集」を、国立国会図書館の検索機能(NDL-OPAC)で拾い出して、分野別に分類して時系列的に並べてみた。もちろん、拾い漏れはあると思うし、特集になっていない重要な論考もあると思うが、一応の傾向は見えてくると思う。

2012年(2)経済2
2013年(0)
2014年(2)人権1 報道1
2015年(10)労働3 経済2 人権2 労務管理1 教育1 思想1
2016年(16)法律・司法5 経営3 医療・心理3 金融2 労働1 教育1 文芸1
2017年(11)労働2 法律・司法2 総合2 労務管理1 教育1 生活1 女性運動1 社会問題1

 まず、指摘しておかなければならないのは、2012年夏に今回の「LGBTブーム」に火を着けたのが『週刊ダイヤモンド』(「国内市場5.7兆円 『LGBT市場』を攻略せよ!」)と『東洋経済』(「知られざる巨大市場 日本のLGBT」)の2つの経済誌だったということだ。つまり、今回の「LGBTブーム」は人権意識(社会的平等)に根差して始まったものではなく、経済的需要・思惑が先行して始まったということである。ライバル関係にある二大経済誌がまったく同時に特集を組んだのは偶然とは思えない。背後に何か大きな意図があった(誰かが仕掛けている)ことを思わせる。
 しかし、経済誌が着火したものの、すぐには燃え上がらず、2013年は特集を組んだ定期刊行物は皆無、2014年も報道系、人権系各1誌だけで、火は燻(くすぶ)った状態だった。
 それが、2015年夏から一気に燃え上がり、10誌が特集を組む。これは明らかに同年6月にアメリカ連邦最高裁が同性婚を認めないのは違法という決定を下したことがきっかけになっている。注目すべきは、2015年に特集を組んだのは、労働、労務管理関係の定期刊行物が多かったことだ(計4誌)。たとえば労務行政研究所の『労政時報』3892号(「新たな人事課題として認識され始める LGBT」)や労働開発研究会の『季刊労働法』251号(「LGBTと労働法」)などが出た。
 これは、経済誌の『日経ビジネス』が「究極のダイバーシティー:LGBTあなたの会社も無視できない」という特集を組んだことでわかるように、これまで長い間、LGBTの存在を無視してきた日本企業が、LGBTの顕在化に「危機感」を抱き始めた結果だと思う。2000年代初頭の「性同一性障害ブーム」の時に、労務管理系の刊行物の動きが意外に早かったことを思い出す。
 学術的には、『現代思想』(青土社)10月号が「LGBT―日本と世界のリアル」という特集を組み、L・G・B・T全分野にわたって、ほとんどが当事者性をもつ執筆者による24本の論考が並ぶさまはまさに壮観だった。『現代思想』がこの分野の特集を組むのは、1997年5月臨時増刊号(レズビアン/ゲイ・スタディーズ)以来18年ぶりのことだった。その18年の空白は1990年代の「クィア・ムーブメント」が頓挫して以降、日本の性的マイノリティの運動の長い停滞を表していると思う。
現代思想201510 (1).jpg
 2016年になると、火はますます盛大に燃え盛り、なんと16誌が特集を組む。まず、春から夏にかけて経営誌・金融誌の特集が続く(計5誌)。たとえば、経営倫理実践研究センターの『経営倫理』82号(「LGBTと経営倫理」)や金融財政事情研究会の『ファイナンシャル・プラン』7月号(「知らないではすまされない LGBTの話」)などがある。正直言って、LGBTと金融がどう関わるのか、よくわからない。Tには優秀なトレーダーが何人かいるのは知っているが、金融トレードの場では別にLBGTだからといって特別扱いされるわけはないだろう。
 夏になると法律・司法系誌の特集が連続する(計5誌)。日本司法書士会連合会の『月報司法書士』7月号(「セクシュアル・マイノリティ~その先の多様化社会を見つめて~」)、『法律のひろば』(ぎょうせい)7月号(「セクシュアル・マイノリティへの現状と課題解決に向けて」)、日本司法書士会連合会の『月報司法書士』7月号(「セクシュアル・マイノリティ : その先の多様化社会を見つめて」)、日本弁護士連合会の『自由と正義』8月号(「LGBTと弁護士業務」)などが出て、先行していた経済的視点にようやく人権的な視点が追いついてきた。
 さらに注目すべきは、これまでなかった医療・心理系誌の特集が現われることだ(計3誌)。まず『精神療法』(金剛出版)2月号(「セクシュアル・マイノリティ(LGBT)への理解と支援」)、続いて『精神科治療学』(星和出版)8月号(「LGBTを正しく理解し、適切に対応するために」)、そして『こころの科学』(日本評論社)9月号(「LGBTと性別違和」)が出た。
とくに精神医学の専門誌がLGBTを特集することには、かつて同性愛が精神病として抑圧され、そこからの脱却(脱病理化)に長く苦しい闘いを強いられたこと、性別の移行を望む人たちは今なお精神疾患の軛(くびき)のもとにあることなどを考えるといささか危惧もあった。しかし、結果的には、それらの経緯を踏まえた有益な論考が多かった。
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 2017年は11誌で、10月までの途中集計ではあるが、2016年に比べてやや勢いが落ちたように見える。また、特集の内容にはかなり変化が見られる。それは、これまで注目されていなかったLGBTブームの「影」の部分への着目だ。まず、そのものズバリの『世界』(岩波書店)5月号(「〈LGBT〉ブームの光と影」が出て、アジア女性資料センターの『女たちの21世紀』90号(「LGBT主流化の影で」)、『AERA』2017年6月12日号(「LGBTブームという幻想:虹のふもとにある現実」)と続いた。さらに青少年問題研究会の『青少年問題』668号(「LGBTとは」)が社会問題の視点で特集を組んだ。華やかなブームの「影」で、LGBTをとりまく厳しい現実への注目は、LGBTの問題の本質が経済需要ではなく人権・社会問題であることを改めて確認する意味で重要だと思う。
 法律・司法系誌は前年に引き続き活発で、『刑事弁護』(現代人文社)89号(「セクシュアルマイノリティの刑事弁護」)、『法学セミナー』(日本評論社)10月号(「LGBTと法」)が出た。とりわけ後者は14本の論考が並ぶ重厚な特集になっている。
法学セミナー2017年10月号.jpg
 このほか、印刷媒体でないインターネット・マガジンにもLGBT関係の記事が増えている。とりわけ「BuzzFeed Japan」「ハフィントンポスト(日本版)」「ニューズウィーク(日本版)」など外資系にその傾向が顕著だ(と言うか、本体ではそれが当然)。
 通時的に見ると、中には内容が伴わないブーム便乗の特集もあるように思うが、これだけ多くの定期刊行物がLGBTを特集した意味は大きい。一過性のブームではなく、日本社会にLGBT問題への関心をしっかり根付かせることができるかどうか、今がまさに正念場だと思う。

2 LGBT関連の学術系書籍
 LGBTブームが起こった2012年頃以降、数多くのLGBT関連の書籍が出版されている。ここでは学術系の書籍を中心に概観してみたい。

(1)L(レズビアン)
 明治から昭和戦前期の女性間性愛の歴史をまとめた赤枝香奈子の大著『近代日本における女同士の親密な関係』(角川学芸出版、2011年)以来、社会史研究にはあまり目立った進展がない。当事者性に乏しい私が「日本におけるレズビアンの隠蔽とその影響」(小林富久子ほか編『ジェンダー研究/教育の深化のためにー早稲田からの発信』彩流社、2016年)を書いたのも、そうした研究状況が背景にある。
 「日本におけるレズビアン・ミニコミ誌の言説分析 ―1970年代から1980年代前半まで」(『和光大学現代人間学部紀要』10号、2017年)など昭和戦後期以降のレズビアン・コミュニティの形成過程の分析を積み重ねている杉浦郁子の研究が一書にまとまるのが待たれる。
 堀江有里『レズビアン・アイデンティティーズ』(洛北出版、2015年)レズビアンであることをベースに思索を深める。とりわけ「『反婚』思想/実践の可能性」は、「家族」制の拡大が新たな排除につながらないか、単純な同性婚推進論に疑問を提起する。
 パリで国際同性婚をした牧村朝子の『百合のリアル』 (星海社新書 2013年) はレズビアンの現実を語る。
 また、レズビアン活動家たちのトークを収録した『日本Lばなしー日本のレズビアンの過去・現在・未来をつなぐ』(パフスクール、2017年)は私家版ながら資料として貴重だ。

(2)G(ゲイ)
 2000年代に入って、風間孝・河口和也『同性愛と異性愛』(岩波新書、2010年)がある程度で長らく停滞が続いていたが、近年、一気に活況を呈してきた。とりわけゲイ・コミュニティの本格的な分析がようやく現れたことは、うれしい。
 森山至貴『「ゲイコミュニティ」の社会学』(勁草書房、2012年)は、ゲイ・コミュニティにおける「つながり」に着目し、「ついていけなさ」=「つながりの困難」を社会学的に分析する。かなり難解だが、一般的にはコミュニティを形成する力であるはずの「つながり」を、逆機能的にとらえた点で画期的。
 新ケ江章友『日本の『ゲイ』とエイズーコミュニティ・国家・アイデンティティ』は、1980年代以降、ゲイ世界の深刻な課題であったHIV感染/エイズ問題研究の到達点を示す。
 砂川秀樹『新宿二丁目の文化人類学 ―ゲイ・コミュニティから都市をまなざす』(太郎次郎社エディタ、2015年)は、文化人類学の手法で新宿二丁目のゲイ・コミュニティを分析していて都市論に結び付けた点も興味深い。ただ、2008年提出の博士論文ほぼそのままで、その後の研究の進展が参照されていないのが惜しまれる。
 三成美保編著『同性愛をめぐる歴史と法 ―尊厳としてのセクシュアリティ』 (明石書店、2015年)は、性的指向の自由は人間の尊厳にかかわる人権という観点に立った多角的な8本の論考からなる論集。
 フレデリック・マルテル『現地レポート 世界LGBT事情 ―変わりつつある人権と文化の地政学』(岩波書店、2016年)は、フランスのジャーナリストによる2013年に刊行された大著『Global Gay』の全訳で、約8年にわたって世界52カ国を取材したリアリティと情報量は圧倒的。日本版では2016年前半までを視野に入れた増補がなされていて、世界各地の「ゲイ革命」の現状を知ることができる。と同時に日本のゲイ運動が世界の潮流から取り残されている状況もわかる。
 前川直哉『〈男性同性愛者〉の社会史―アイデンティティの受容/クローゼットへの解放』(作品社、2017年)は、昭和期、とりわけ戦後の同性愛者の歩みを収資料に基づいて丁寧にたどった力作。資料として収集したいわゆる「変態雑誌」、「男性同性愛同人誌」の書誌研究としても有益。前著『男の絆―明治の学生からボーイズ・ラブまでー』 (筑摩書房、2011年)と合わせて、男性同性愛者の社会史研究を大きく進展させた。
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 このほか、クレア・マリィ『「おネエことば」論』(青土社、2013年)は、男性同性愛者に特徴的な「おネエことば」のジェンダー言語学的な分析だが、対象がテレビ・メディアを中心としており、ゲイ・コミュニティにおける一次的な使用例の分析に乏しいのが残念だが、ゲイ・コミュニティの深部に入れない女性研究者にそれを望むのは酷か。牧村朝子『同性愛は「病気」なの? 僕たちを振り分けた世界の「同性愛診断法」クロニクル』 (星海社新書、2016年) は同性愛の病理化の歴史をわかりやすくたどる。
 また「いわゆる淫乱旅館について」(井上章一・三橋順子編著『性欲の研究・東京のエロ地理編』平凡社、2015年)、「戦後釜ヶ崎の周縁的セクシュアリティ」(『薔薇窗』26号、2015年、鹿野由行との共著)など、男性同性愛者の性愛の場である「ハッテン場」の歴史研究を精力的に進めている石田仁の研究が早く一書にまとまることを期待している。

(3)B(バイセクシュアル)
 LGBTブームであるにもかかわらずバイセクシュアルの研究書は刊行されず、研究の真空地帯になっている。針間克己・平田俊明編著『セクシュアル・マイノリティへの心理的支援 ―同性愛、性同一性障害を理解する』(岩崎学術出版社 2014年)が言及している程度。
 そんな状況の中で、青山薫「「『バイセクシュアル』である」と、いうこと」再考―「バイセクシュアル・アイデンティティ」の不可能性と可能性」(『現代思想』2015年10月号)は当事者性のある著者による貴重な成果。
 バイセクシュアル研究の不振は世界的な傾向のようだが、日本においてはさらにその傾向が著しい。

(4)T(トランスジェンダー)
 異性装の文化論は、三橋順子『女装と日本人』(講談社現代新書、2008年)、佐伯順子『「女装と男装」の文化史』(講談社新書メチエ、2009年)以降、停滞気味だったが、総合芸術誌の『ユリイカ』(青土社)2015年9月号が「男の娘ー”かわいい”ボクたちの現在」を特集した。さまざまな分野から数多くの論考が集まり、女装文化が現代日本にもしっかり受け継がれていることが確認できた。
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 服藤早苗・新實五穂『(アジア遊学)歴史のなかの異性装』 (勉誠出版、2017年)は、古今東西の異性装についての論考18本を収録し、トランスジェンダー文化の普遍性と多様性を知る上で有益。
 長島淳子『江戸の異性装者(クロスドレッサー)たち―セクシュアルマイノリティの理解のために―』(勉誠出版、2017年)は近世史家による本格的な江戸時代の異性装研究。従来、日本の歴史学界はセクシュアル・マイノリティ的な存在に目を向けてこなかった傾向があるだけに画期的な著作。今後、さらなる異性装についての史料発掘が期待される。
 佐々木掌子『トランスジェンダーの心理学―多様な性同一性の発達メカニズムと形成』(晃洋書房、2017年)は、臨床心理学の立場から性別移行とジェンダー・アイデンティティ(性同一性)の関係を、独自のスケールを用いて分析する。私のように数字に弱い者には歯ごたえがある内容だが、世界的な研究動向もしっかり把握していて得るものは大きい。また、これまで「性同一性障害」を論文名にすることが多かった著者が、書名を「トランスジェンダー」としたことも注目。「性同一性障害」に限定せずより広い範囲(たとえば「Xジェンダー」など)を包摂する概念として「トランスジェンダー」を選んだとのことだが、やはり時代の流れ(世界の潮流)を感じる。内分泌系の医学専門雑誌『ホルモンと臨床』(医学の世界社)が2017年秋に「内分泌科医が理解すべきトランスジェンダー」という特集を組んだのも、そうした流れだ。
佐々木掌子『トランスジェンダーの心理学ー多様な性同一性の発達メカニズムと形成ー』.jpg
 その「性同一性障害」だが、2018年のWHO(世界保健機関)の疾患リストの改訂(ICD-11の施行)により、病名(疾患名)として完全に消えることがほぼ確定的となっている。同時に今まで性別の移行を望むことは精神疾患とされてきたが、その軛がようやく外れることになりそうだ(性別移行の脱精神疾患化)。
 子どもの「性同一性障害」の第一人者である康純『性別に違和感がある子どもたちートランスジェンダー・SOGI・性の多様性』(合同出版、2017年)も、すでに「性同一性障害」を使っていない。「性同一性障害」を書名に掲げた学術書としては、エスノメソドロジーの手法で分析した鶴田幸恵『性同一性障害のエスノグラフィ―性現象の社会学』 (ハーベスト社 2009年)が最後になるかもしれない。

(5)その他
 近年、「Xジェンダー」という言葉をしばしば聞くようになった。一見、英語のように思えるが、外国では通用しない和製英語で、gender queerに近い概念と言われていた。
LABELX編著『Xジェンダーって何? ―日本における多様な性のあり方』(緑風出版 2016年)は、初めてのXジェンダーの専論書。読んでみると、gender queerだけでなく、海外で言うgender-neutral(中性)、bi-gender(両性) A-gender(無性)、gender-fluid(不定性)、 Questioning(未確定)などを含み、内実はきわめて多様でとらえどころがない。
 とらえどころがないのが「Xジェンダー」の特質という説もあるが、私は「こうあらねばならない」という規範性が強い「性同一性障害」概念から自分は外れていると感じている人たちが作りだした居場所だと考えている。世界でも稀なほど「性同一性障害」概念が広くかつ強く流布した日本で「Xジェンダー」概念が生まれた理由もそれで説明できる。

(6)LGBT
 最後に、LGBT全体について。原ミナ汰・土肥いつき編著『にじ色の本棚 ―LGBTブックガイド』(三一書房、2016年)は、本稿では触れられなかった「古典」を数多く紹介している。ただ、紹介のレベルにばらつきがあるのが惜しまれる。
 森山至貴『LGBTを読みとくークィア・スタディーズ入門』(ちくま新書 2017年3月)は、クィア・スタディーズの入門書。基礎的な理論から最近のLGBTの状況まで幅広く、そしてバランス良く論じていて、LGBTを学ぶのに最適・最新の書籍だと思う。ただ、Tの分野についてはやや感覚が古い気がする。日本のLGBTをめぐる状況の変化は早い。それを反映しながら改訂・増補をしていってほしい。

おわりに
 1990年代の「クィア・スタディーズ」が挫折した後、2000年代の原野に1人立っているような寂々寥々たる状況を知る者にとっては、この数年のLGBT関連書籍の活況はまさに隔世の感がある。それでも、レズビアンやバイセクシュアルの研究は明らかに不足している。さらにはL・G・B・T以外のセクシュアリティ、たとえばAセクシュアル(無性愛)やパンセクシュアル(汎性愛)などはほとんど未開拓に近い。
 私は非才に加えて研究者としてのスタートが遅く、日本におけるトランスジェンダー・スタディーズの細い道筋を切り拓くのが精一杯だった。今後、より才能に富んだ後進たちが豊かな学術研究の花を咲かせてくれることを心から期待している。


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